『アドルフに告ぐ』
マンガの神様、手塚治虫の『アドルフに告ぐ』という作品があります。
ナチス・ドイツとヒトラーの出生の秘密を巡って3人のアドルフが登場するという大傑作です。
このマンガにおいては、ナチス総統アドルフ・ヒトラーにユダヤ人の血が混じっているというとんでもない秘密が非常に重要な鍵となっています。
その詳しい内容は以下の様なものです。
この秘密が手塚治虫による完全な創作だと思っている方も多いようですが、実際にこのようなことを主張している人はいるのです。
実際に戦後に行われたニュルンベルグ国際軍事裁判で、一級戦犯であるハンス・フランクがそのような陳述をしており、さらにこの陳述に基づいてヒトラーの研究家であるフランツ・イェツィンガーなどがこの事実を主張しています。
「ヒトラー=ユダヤ人説」の真偽
しかし、上記のような説は、オーストリアの研究家アントン・クラインによって、下記のような理由によりほぼ全面的に否定されています。
- 実際にフランケンベルガーという名の人物はグラーツ市には登録されておらず、レオポルト・フランケンライターという人物の間違いと思われる。
- フランケンライターはバイエルン系カトリック教徒であって、ユダヤ教徒ではなかった。
- 1496年のユダヤ人居住禁止令によって、グラーツ市にはユダヤ人が住むことはできなかった。
- ヒトラーの父アロイスが生まれた1837年当時、レオポルトは負債を抱えて露頭に迷っていた時期であり、過去の女中であるマリアと関係を持つということは考えにくい
そして、アロイスの父親が実際に誰であったかについても諸説分かれています。
- アロイスは母マリアの姓であるシックルブルーガーから母の夫であるヨハン・ゲオルクの姓であるヒードラーを名乗るが、実際にはこのヨハン・ゲオルクこそがアロイスの実父である(クライン説)
- アロイスの実父は、戸籍上の父親であるヨハン・ゲオルクの弟であるヨハン・ネポムク・ヒードラーである(マーザー説)
マーザーの主張するヨハン・ネポムクがアロイスの父親だったとすると、ヒトラーの母親であるクララ・ベルツルはヨハン・ネポムクの孫娘にあたるため、ヒトラーは近親婚によって生まれたことになります。マーザーは、ヒトラーの異常性格は近親婚のゆえとするのです。
ヒトラーの両親:クララとアロイス
ヒトラーの父親であるアロイスの父親が誰であったかは、今となってはもはや知りようがありませんが、いずれにしても、アロイスの父親がユダヤ系であった可能性は低く、したがってヒトラーにユダヤ人の血が混じっているということもなさそうです。
ヒトラーがなぜあれほどまでにユダヤ人を迫害したかという点については、これこそ諸説ありますが、少なくとも自らの出自がユダヤ人であったからという理由には根拠がなさそうです。
ヒトラーの甥の息子に当たるアレクサンダー・スチュアート・ヒューストンや、ヒトラーの従兄弟であるオーストリア人農民、ノルベルトH.らの唾液サンプルを採取し、DNA検査を行いました。唾液サンプルから採られたDNAを検査したところ、そのDNAにはY染色体ハプログループのE1b1b系統が含まれることが明らかにされた。この染色体は、オーストリアやドイツなど西ヨーロッパには珍しいもので、ユダヤ人や北アフリカによく見られるものだそうです。ベルベル人かユダヤ人か定かではないですけどね。