五智如来とその印相について

 

印相とは

釈迦像には「五印」と呼ばれる代表的な印相があり、それぞれ次のように説明されています。

  1. 説法印(転法輪印)・・釈尊が最初の説法をしたときの印
  2. 施無畏印・・・・・・・人々のを安心させるときの印
  3. 与願印・・・・・・・・人々の願いを聞き入れ、望むものを与えようとするときの印
  4. 定印・・・・・・・・・悟りを開いたときの釈尊の印
  5. 触地印(降魔印)・・・悟りを開いた釈尊が、悪魔を退けたときの印

この中でも最初の説法をしたときの説法印は釈迦如来の代表的な印となっており、このように釈尊像の手の形はその生涯のハイライトシーンを彩るものであり、釈尊がいかに偉大な尊者であったかを示すための象徴的記号となっています。

極楽寺釈迦如来

インドでは、古来よりムドラーと呼ばれる様々なて指の形によって物事をあらわす古典舞踊の伝統がありました。

この起源はヴェーダ時代にまで遡ると言われていますが、元来はバラモンが最死儀礼の中で用いたものに由来するとされています。

本来仏教は、バラモンの否定から始まったわけですが、しかし6-7世紀にかけて勃興する汎インド的な宗教運動=タントリズムによって、仏教の経典の中に、諸仏・諸尊が描かれ、その中でムドラーも侵入してきたのです。

このタントリズムによって、仏教は多様な神仏と民俗信仰を併せ呑むかたちで、曼荼羅世界にそれが収斂していくことになります。その結果としてより秘教性が高まり、象徴主義的な教義が発展していきました。これが密教です。

五智如来とその印相

密教の段階にいたって、大日如来が宇宙の根本原理であり、至高の存在とされましたが、この大日如来の5つの智慧(法界体性智、大円鏡智、平等性智、妙観察智、成所作智)を象徴するものに五智如来があります。

五智如来

中尊である大日如来を中心にまったく同じ姿の4体の如来が囲む形で、それぞれの本質・功徳が印相で表されているのです。

以下、それぞれの如来の由来と印を見てみましょう。

阿閦如来

東は、阿閦如来です。
サンスクリット語では「アクショービヤ」。動かざる者、怒りのない者と訳されます。
『阿閦仏国経』によれば、はるか東方の阿比羅台という世界で大日如来の教えを受けて怒りの心をなくし、悟りを開いて仏になったとされています。
右手を下に伸ばす触地印を結んでおり、これは降魔印ともいって、誘惑や恐怖に打ち勝つ不動の心を表しています。
また、阿閦如来は、大円鏡智【鏡の如く法界の万象を顕現する智】を持っています。

阿閦如来

 

宝生如来

南は宝生如来です。
サンスクリット語では「ラタナサンバヴァ」。福徳の宝を生じる仏という意味です。
左手を膝の上に置き、右手は下に伸ばして手のひらを前に向ける与願印を結んでいます。
伸ばした五指の間からどんな願いでも意のままにかなうという如意宝珠を降らし、人々の願いを成就させることができます。
宝生如来は、平等性智【諸法の平等を具現する智】を持っています。

宝生によりあ

 

無量寿如来

西は無量寿如来です。また名を阿弥陀如来といいます。
サンスクリット語では「アミユータス」または「アミターバ」。西方極楽浄土の主催者であり、人々を極楽浄土に迎える仏です。
定印を結んでおり、結跏趺坐の上に両手を重ねて大指と頭指で倭を作ります。
無量寿如来は、妙観察智【諸法を正しく見極め、追求する智】を持っています。

無量寿如来

 

不空成就如来

そして北は不空成就如来です。
サンスクリット語では「アモーガシッディ」。
左手は腹前で衣を掴み、右手は胸の高さに上げて掌を前に向けた施無畏印を結んでいます。
不空成就如来は、成所作智【自他のなすべきことを成就せしめる智】を持っています。

不空成就如来

 

大日如来

そして大日如来は、智拳印を結んでいます。
これは、無知や迷妄を退ける堅固な智慧を象徴するものであり、右手は仏界、左手は人間界を表しています。
いわば、如来の智慧と衆生の智慧が交じり合わっていることを示しており、即身成仏という密教の教義を体現したかたちとなっているのです。

大日如来

 

印相における釈尊の仏教の密教化

歴史的実在であった釈尊は、衆生の迷妄を仏法という武器(法輪)で打ち砕くことを象徴する説法印でした。
これに対して、大宇宙の実相である大日如来は、智拳印にて仏法そのものの意味を解き明かしているのです。

このように、印は仏教がタントリズムによって密教化していく過程において、その体系を確立していったと言えるでしょう。

 


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1 Response

  1. 2015年6月8日

    […] 五智如来とその印相について […]

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