陸上戦の王者・戦車
第1次世界対戦から導入された戦車は、歩兵に恐怖を与え、第2次世界大戦のころには、ドイツの電撃戦という「発明」により完全に戦場の主役となっていました。
そしてそれは大戦後の現代戦においても基本的に大きく変わることはありません。
飽くなき進化を続けた戦車は地上戦においてとてつもなく強力な兵器であり続けています。
しかし、ひとつの兵器が進化すれば、それに対応する兵器が生まれます。
戦車に対しても同じことは当然ながら置きました。
対戦車砲、駆逐戦車、対戦車ヘリ、対戦車ミサイルなどなど。
そんな中から今回は歩兵が個人で戦車に対抗するための兵器をご紹介します。
対戦車ライフル
まずは対戦車ライフルです。
第一次大戦のころの戦車は装甲もぶっちゃけ大したことがなかったので、口径が10mmから15mmくらいの小銃でぶち抜くことができました。
これはドイツのマウザーM1918対戦車ライフルです。
口径13.2mmですが、重量は16kgもあります。装甲貫徹力は距離65mで25mmの装甲をぶち抜くことができました。
しかし、戦車の装甲が分厚くなってくると、対戦車砲や対戦車ライフルでぶち抜くことが難しくなってきます。
つまり、ぶち抜けないのです。
成形炸薬弾
そこで編み出されたのが成形炸薬でした。
円錐形の窪みを設けた炸薬に後ろから点火すると高速のジェットが噴火します。
これを「モンロー効果」といいます。
さらに、円錐に薄い金属の内張りをしておくと、溶けた金属の塊が高圧のガスと溶解した金属が高速で前方に飛び出して、鋭い錐のように装甲板に孔を開けることができます。
この原理を「ノイマン効果」といいます。
この2つの物理的な現象を利用して、貫通力を増すことで、戦車の分厚い装甲をぶち抜くことができるようになりました。
つまり、ぶち抜けます。
これが成形炸薬弾頭です。
成形炸薬弾は、衝突時にメタルジェットが噴射すればそこから速度エネルギーが発生するため、命中時の速度に関係なく、貫通力を発揮します。
したがって、目標までの距離が関係ないってことです。遠くからでもぶち抜けます。
ロケット弾発射器
M1バズーカ
これによってアメリカで生まれた兵器がM1バズーカでした。
バズーカは、成形炸薬弾等を取り付けたロケット弾を発射する装置です。
ちなみに「バズーカ」というのは愛称で正式名称ではありません。
ボブ・バーンズという芸人がバズーカと名づけた奇妙なラッパを演奏して人気を博していたことからそう名付けられたのです。
バズーカはあくまでM1ロケット弾発射器の愛称であって、他の対戦車兵器はバズーカではありません。固有名詞が一般化した例の一つですね。よくテレビなどでは、「バズーカ砲」という言葉が使われたりしますが、これは間違っています。バズーカはロケット弾発射器であって砲ではないのです 。
こいつでもってアメリカ軍兵士はドイツの戦車に対抗することができるようになりました。
発射筒を構えて発射する兵士と、ロケット弾を装填する兵士の2人組で、装填手が射手のヘルメットをポンポンとやって合図して、撃つわけです。
といっても有効射程はせいぜい300mでして、積極的な攻撃兵器というよりも、歩兵が身を守る防御用でした。
朝鮮戦争では、北朝鮮のT-34戦車に対抗して、パワーアップ版のM20スーパー・バズーカで応戦しています。
その後M72LAW(軽対戦車兵器)に進化していきます。
これは発射筒が使い捨てのタイプです。
この手の対戦車兵器は個人が携行するため、口径をあまり大きくできず、結果的に威力が限られてしまうのが悩みどころです。
対戦車擲弾発射器
パンツァーファウスト
他方で、グレネイド(擲弾)を発車するのが対戦車擲弾発射器です。
ロケット弾と擲弾の違いは、ロケット弾が自ら推進装置を持っていて自力で加速しながら飛んで行くのに対し、擲弾は推進装置がないためガスで推し出してやる必要があることです。
高温のガスに耐えるため、擲弾発射器の発射筒は頑丈に作られている必要があります。
擲弾発射器の元祖といえば、ドイツのパンツァーファウストです。
こいつは、肩に担ぐ鋼パイプの先端に成形炸薬弾頭を差し込んで撃ちだす使い捨て兵器です。
擲弾発射器の利点は、弾頭を発射筒の口径より大きくできるので、携行性能を落とすことなく威力を持った擲弾を撃つことができることです。
戦後の発展形パンツァーファウスト3は、カウンターマスと呼ばれるバラストで反動を中和することができつため、無反動砲と呼ばれています。
これによってガスの噴射も抑えることができるため、室内などの閉鎖スペースでも撃つことができるようになりました。
この無反動砲がカール・グスタフ無反動砲などに進化しています。
自衛隊では84mm無反動砲として採用されていることは有名です。
両方を兼ね備えたRPG-7
AK47と並んでテロリストが持つと様になる兵器の代表格です。
これは、ロケット弾発射器と擲弾発射器の両方の利点を兼ね備えた、大変すぐれた兵器なのです。
パンツァーファウストが使い捨て兵器だったのに対し、こちらは先端から擲弾を差し込めば何度でも再利用することができます。
また、発射される擲弾にロケット・モーターがついていて、発射後に加速しながら突進していくことができます。
115m/秒で発射され、衝突時には295m/秒まで加速します。
非常に頑丈かつシンプルで簡単に取り扱うことができ、また安価にコピーを増産できるので、世界中の戦場で見ないことはないというベストセラー兵器となっているのです。
これによってアメリカ軍はヘリをバンバン撃ち落とされたりしているわけです。
対戦車ミサイル
その他、歩兵が携行する対戦車兵器として対戦車ミサイルがあります。
こちらは打ちっぱなしのロケット弾や擲弾と違い、赤外線などで目標を追尾するものです。
ミラン対戦車ミサイル
M47対戦車ミサイル
FGM-148ジャベリン
自動追尾する仕組みがある分、命中率は高いですが、当然高価なものとなります。
ワイヤーなどを利用する有線誘導式から、アクティブ赤外線方式、パッシブ赤外線方式と、次第に進化し続けています。
このように対戦車兵器は戦車の発達とともに進化を遂げており、結局イタチごっこの様相を呈しています。
世界が平和でありますように。